報道やブコメでは
② 男女の性差を踏まえ、トイレの待ち時間が平等になるように、原則として、利用者が概ね男女同数である施設においては女性便器数が男性便器数(大便器と小便器の合計)以上となる基準とすること。
の部分に注目が集まっているけど、資料で実態調査も行われていて、そちらには興味深い調査結果も見られた。
おしっこを個室でしたい男性がじわじわ増えている
個人的に興味深かったのは、男性のトイレ利用について、『オフィスのトイレで小用時に大便器と小便器のどちらを使用しますか?』という質問に対して、14%の人が「いつも大便器/大便器が多い」と回答しているところ。「どちらも同じくらい」が5%、「小便器が多い」が17%で、「いつも小便器」は64%だった。僕にはおしっこのために個室に入るという発想はなかったため、この数値はかなり意外だった。
(なお、この調査は「オフィスで」の条件があるが、これがアンケート結果にどの程度効いているのかはよくわからない。)

また、興味深いことにこの数値(オフィスで小便するときに個室を使う割合)は2011年の調査では8%だったのが、2017年と2022年の調査ではいずれも11%になっており、経年的に緩やかに上昇している。個室おしっこ派が増えているのだ。

のあり方に関するガイドライン』より
まぁ、考えてみると僕も自宅(や、ホテルなどそもそも大便器しかないトイレ)では大便器に座っておしっこをするので、例えば家でずっと座っておしっこしてきた人などは、出先のトイレでもできれば座って用を足したいということもあるのかもしれない。(図1-1の理由のトップも「座りたいから」となっており、この感想と一応符合する。)
洋式トイレの支持は圧倒的。でも和式派もいる。
僕が子供の頃は学校や商業施設の大便器は和式が多かったので、幼稚園だったか小学校だったかに上る前に、母親に連れられて和式便所で用を足す練習をしたことを思えている。
この洋式・和式の好みについても調査されていた。当然、洋式派が多いのだが、男性で4%、女性で10%ほどは和式派がいた。数値自体も思ったより多いなという印象なのだが、男女差があるのも意外だった。なにか理由があるのだろうか?
(和式派の意見で、不特定多数の使用した便座に座る/触れるのが嫌というものは目にしたことがある。公衆トイレだと便座を拭くための消毒液?シート?みたいなのが設置されていたりするし、他人の座った便座を不潔だと思う人は多いのかもしれない。)

トイレで用足し以外のことをする人は女性に多いが、スマホを触るのは男性が多い
トイレの個室で何をするかという調査もある。
意外ではないが、この結果もかなり男女差が見られる。「身だしなみを整える」「化粧」「着替え」は女性が多く、「スマートフォン・携帯電話やタブレットなどの操作」は男性が多い。化粧って個室じゃなくて手洗い場(あるいは女性トイレにはあるらしいと聞く化粧スペース)でするイメージだったが、個室でする人も多いようだ。
また、駅のトイレで着替えをする人が結構いるのも意外だ。何から何に着替えるのだろうか?(学生が制服から私服に着替えて遊びに行くとか? でもその場合、着替えを持ち歩いているのか?)
トイレでスマホ等を見るのは男性が多かった。ここは性差が無いだろうと思っていたので意外である。ちなみに僕もスマホは見る。(うんこが出るまでの暇つぶしであって、スマホを見るために個室にこもるわけではない。)
下図は駅のトイレについての調査だが、大規模商業施設のトイレでも傾向は変わらないようだ。(図は省略)

韓国と米国メリーランド州には男女のトイレ数比についての法律がある。
国交省が10カ国と1地域を対象にした調査では、便器数について下記4つの基準が見つかったようだ。韓国と米国メリーランド州では、今回のガイドラインと同様、『女性便器数が男性便器数(大便器と小便器の合計)以上』とされている。特に韓国の大規模施設では、女性便器数を男性便器数の1.5倍以上としているようだ。台湾について、男女比に関する情報は示されていない。(スフィアプロジェクトがどういうカウントになっているのかよくわからないが、10カ国+1地域(台湾だろう)を調査して、韓国、米国メリーランド州、台湾の基準が引用されているということは、残りの8カ国と米国49州については便器数の基準がなかったのだろうか?)
スフィアプロジェクトでは、避難所においては女性便器数を男性大便器の3倍にせよとしているようだ。これは小便器を含まないので、仮に小便器込みで同数とするなら男性小便器は大便器の2倍ということだろうか。

スフィアプロジェクトについて、「避難所における」という注釈がついていたのが気になって調べてみた。
日本語版スフィアハンドブックの給水、衛生および衛生促進 (WASH)の項に以下のような付記があった。

「受入/一時滞在センター」では女性用と男性用で3:1にするらしい。この数字は学校では2:1になり、それ以外では規定がない。この表自体が別の資料(Ferron, S. Morgan, J. O’Reilly, M. Hygiene Promotion: A Practical Manual from Relief to Development. ITDG Publishing, Rugby, UK, 2000 and 2007.)の引用らしいが、この本はオンラインで無料で読むことはできないようだ。(Amazon.comでは売っている。)
スフィア基準について解説しているウェブサイトによると、基本指標の4として『女性や少女が、安全だと感じることのできるトイレの割合は、高い方が理想的です。』とあるので、このあたりの指標によるものだろうか。
日本の学会の基準は?
国内の基準に関しては下記のように言及されている。
トイレの便器数に関する基準は、多様な主体によって定められています。広く一般に活用されている、昭和58年に策定された空気調和・衛生工学会の規準のほか、鉄道事業者や高速道路事業者などの施設管理者が、施設の実態を踏まえた独自の基準を策定している場合もあります
ひとまず具体的に指定されている『昭和58年に策定された空気調和・衛生工学会の規準』というのを探してみると、『SHASE-S206-2019 給排水衛生設備規準・同解説』のことのようだ。(昭和58年どころか2019年やんけ、というツッコミが入りそうなので補足しておくと、この基準は何度か更新されており、最終更新が2019年のようだ。)
資料自体は例によってオンラインで無料で見ることはできないのだが、国交省の委員会の資料(資料3 小瀬委員説明資料)で内容の解説があった。
資料の8ページによると、必要便器数の算定は到着率(その建物に100人の人がいたとき、1分あたりの便器利用人数)と占有時間(便器を占有する時間)から、期待待ち時間を算出し、これが一定のサービスレベルを下回らないように便器数を決定するということのようだ。
施設ごとに数値が違うのだが、百貨店を例に取ると、下記のようになっている。
| 到着率(人/min/100人) | 占有時間(s) | |
| 男子小便器 | 0.300 | 30 |
| 男子大便器 | 0.080 | 240 |
| 女子便器 | 0.300 | 90 |
上記の数字をもとに、利用者が1000人のときの期待待ち時間がちょうど0になる便器数を計算すると、下記のようになる。
男子小便器:1.5台
男子大便器:3.2台
女子便器:4.5台
男子便器の総数(4.7台)≒女子便器の総数(4.5)台で、だいたい同数になる。(ただし端数を切り上げると、男子便器は(2+4=)6台、女子便器5台となり、男子便器のほうが多くなる。)
上記の計算より、男女の便器数が概ね同数(正確には、男子小便器:男子大便器:女子便器=1.5:3.2:4.5)であれば、男女で待ち時間の差は生じないことになる。
したがって、報道で注目されている『トイレの待ち時間が平等になるように、原則として、利用者が概ね男女同数である施設においては女性便器数が男性便器数(大便器と小便器の合計)以上となる基準とすること。』という文言はおおむね妥当と言えるわけだ。(なぜ同数程度、ではなく女性便器数が男性便器数以上なのかはわからないが。)
資料では、現在の基準の説明をしたあと、施設の利用者の男女比の推定が適切か、占有時間の数値が適切か、という問題提起を行っており、『女子トイレの待ち行列問題を始めとする問題に対応する衛生器具の設置個数の決定法の見直し及び解説』等に関する学会提言を2026年夏頃に行うことを予告している。今回の国交省のガイドラインもそれらの動きと足並みをそろえたものだろう。
ところで、上記の計算だと男子トイレの小便器と大便器の比は1:2で大便器の方が多いべきなのだが、僕の知る限り、そのような男子トイレはほとんどなく、小便器のほうが多いか同数程度のトイレが多いと思う。それがなぜかはよくわからない。(経験上、男子トイレの行列はだいたい個室の方にできるので、計算と実態は符合している。)どうせなら、男子トイレの小便器と個室の比率についても指針を出したら良いのではないか。